大矢先生コラム

くるみアレルギーの表示義務化について

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 大矢 幸弘先生
くるみ

お話を聞いた人

大矢幸弘先生

大矢 幸弘先生

国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長

国立名古屋病院小児科、国立小児病院アレルギー科などを経て、2002年から国立成育医療センター第一専門診療部アレルギー科医長、2015年に国立研究開発法人への改組を経て現在に至ります。小児アレルギー疾患(気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、消化管アレルギー)のガイドライン作成に委員として関わっています。

くるみアレルギー発症例の増加を受け、消費者庁は、食物アレルギーの表示に関する「推奨」品目であった「くるみ」を令和5年3月に義務化し特定原材料(義務)に追加しました。くるみは非常に多くの加工食品に含まれていますので、食品のアレルギー表示を確認するようにしましょう。ただ令和7年3月までは経過措置期間なので表示推奨品目の記載がない食品には要注意です。くるみアレルギーの子どもの家庭の居間や寝具のホコリからは高濃度のくるみアレルゲンが検出されています。家庭での消費量の増加や経皮感作のリスクにも注意が必要です。
※当サイトでは令和6年3月を目途に、くるみを含めた特定原材料8品目の表現に切り替えていきます。

表示義務化された経緯

平成13年3月に食品衛生法に基づく厚生労働省令が改正され、アレルギー物質を含む食品の表示制度が創設されました。この時点での特定原材料(義務)は、乳、卵、小麦、そば、落花生の5品目で、特定原材料に準ずるもの(推奨)が19品目でした。平成16年12月に、特定原材料に準ずるものに「バナナ」が追加され、平成20年6月には、「えび」「かに」が「特定原材料に準ずるもの(推奨)」から「特定原材料(義務)」に移行しました。平成21年に消費者庁が設置され、以後、その管轄となりました。平成25年9月には、特定原材料に準ずるものに「カシューナッツ」「ゴマ」が追加され、令和元年9月には、「アーモンド」が特定原材料に準ずるものに追加され、令和5年3月に「くるみ」が特定原材料に追加となりました。
消費者庁では、食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査を3年毎に行っており、令和3年度の報告書によると、即時型食物アレルギー上位項目の症例数比率で木の実類が2020年度には小麦を抜いて第3位となり(表1)、木の実類のなかでは「くるみ」が最も多く463例56.5%を占めます。ちなみに、カシューナッツ21.1%、マカダミアナッツ0.7%、アーモンド0.6%と続きます。



表1 2020年度調査における即時型食物アレルギーの原因食物 1)

1位

    

鶏卵

    

2028例

    

33.4%

2位

    

牛乳

    

1131例

    

18.6%

3位

    

木の実類

    

819例

    

13.5%

4位

    

小麦

    

533例

    

8.8%

5位

    

落花生

    

370例

    

6.1%

食物アレルギーの原因食物は、地域や時代による食物の消費量の変化に影響を受けるため、表示食物も定期的な見直しが必要となります。


表2 アレルギー表示対象品目

必ず表示される8品目(特定原材料)

えび、かに、くるみ(※注)、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)

表示が勧められている20品目(特定原材料に準ずるもの)

アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

(※注)くるみの表示については、令和7年3月31日までの経過措置期間(事業者が表示の切替えを行う期間)が設けられています。

くるみアレルギーの仕組みと症状

くるみアレルギーなどの即時型反応を示す食物アレルギーが成立するには、食物抗原蛋白(くるみに含まれるタンパク質)に対する特異的IgE抗体が作られて皮膚や粘膜にいるマスト細胞(肥満細胞とも言います)の表面について待機している段階(感作相)が起こる必要があります。この段階までは何もアレルギー反応は起きないのですが、感作された状態の人が食事などで体内に食物アレルゲン(くるみ)を取り込むと、アレルゲンがIgE抗体に結合しマスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されて蕁麻疹やアナフィラキシーなどのアレルギー反応を起こします(反応相)。症状としては、口の中の違和感(かゆい、からい、ぴりぴりするなど)、唇の腫れ、蕁麻疹、腹痛、吐き気、下痢、呼吸困難、めまい、意識消失(ショック症状)など即時型の食物アレルギーによくある症状が出現します。症状の程度には個人差があり、少量で重篤な症状が出る人もいれば口の中の違和感や軽い蕁麻疹だけで済む人もいます。
くるみの特異的IgE検査では、くるみからの祖抽出抗原が用いられており、さまざまなタンパク質が含まれています。そのなかで特定の成分をアレルゲンコンポーネントと呼び、特定のコンポーネントがアレルギー反応を起こしやすいことがわかってきました。くるみでは、Jugr1(ジャグ・アール・ワン)というコンポーネントが重篤なアレルギー反応と関連することが報告されています。
初めての発症年齢は、令和3年度の消費者庁の調査では、年齢群別原因食物において、木の実類は、3-6歳では第1位を占め、1-2歳、7-17歳では第2位を占めています。1)
卵や牛乳に比べて、初めて食べる年齢が高いことも初発年齢が高いことと関係していると思われます。まだ、くるみを食べたことのない方でJugr1の特異的IgEが陽性を示す場合は、医師に相談して慎重に開始するようにしましょう。

診察

注意点

パンとサラダ

くるみは、和洋菓子(チョコ、クッキー、ドーナツにも)、味噌、つゆ、食用油、パン、パスタ、ドレッシング、サラダ、など実に多くのさまざまな加工品に使用されています。製品の外見からは判断できない場合も多いので、必ず原材料表示を確認しましょう。 外食などでサラダにドレッシングがかけてある場合など、原材料が確認できないメニューは要注意です。 加工食品におけるくるみの表示については、義務化されましたが、令和7年3月31日までは経過措置期間(事業者が表示の切替えを行う期間)が設けられていますので、特定原材料の品目だけで推奨項目の表示がない加工品は要注意です。
なお、くるみとペカンナッツはIgE抗体が結合する部位の構造がよく似ているため、交差反応性があります。したがってくるみアレルギーの人はペカンナッツでもアレルギー反応を起こす危険性が高いので注意してください。ちなみにカシューナッツとピスタチオにも交差反応性があります。

経皮感作と食物アレルギー

国立成育医療研究センター・アレルギーセンターと株式会社ダスキンの開発研究所が家庭内のホコリ中に含まれるくるみアレルゲンに関する共同研究を行ったところ、45家庭を対象とした調査により、家庭内における環境アレルゲンとしてのくるみアレルゲンの存在が明らかになりました。13家庭のリビングルームのホコリと14家庭の子どものベッドの上のホコリから、くるみアレルゲンを検出しました。家庭内におけるくるみの週間消費量が4g以上の家庭では、4g未満の家庭と比較して、ホコリ中のくるみアレルゲンの量が多く認められました。そして、くるみの主要アレルゲンであるJugr1に対する感作が陽性であった子どものベッド上のホコリ中からは、くるみアレルゲン量を多く認めました。(くるみアレルゲン200ug/g以上の検出はJugr1感作陰性家庭からはが0%、Jugr1感作陽性家庭は50%)。2)
これは他の食品でもそうですが、家庭内におけるくるみの消費量が多い場合、ホコリ中のくるみタンパク量も多くなる傾向があり、子どもが生活している居間や寝具のホコリに含まれるくるみタンパクから感作を受けやすくなります。
アレルゲンタンパクは炎症のある上皮から侵入すると感作を受けやすくなるので、湿疹のあるお子さんはリスクが高くなります。英国の報告ではピーナツオイルでマッサージを受けた乳児はピーナツアレルギーになるリスクが極めて高いことが示されています。3)
皮膚に塗る外用薬は自然素材だから安全という理屈は成り立ちません。食べ物は食べることで免疫寛容が誘導され食物アレルギーの予防や治療に繋がりますが、皮膚に塗った場合、炎症があると感作を受けてIgE抗体を作ってしまうリスクが高くなります。ですから食物タンパクが入っている製品は決して皮膚には塗らないようにしてください。

掃除機

文献
1)令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書
2)Hiroki Y et.al. Association of walnut proteins in household dust with household walnut consumption and Jug r 1 sensitization. Allergology International 2023.
3)Lack G et.al. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N Engl J Med 2003;348:977-85.


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